Classiques japonais avec furigana
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ひかげのまち
幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選
松本 泰
Lisez 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) de 松本 泰 (まつもとたい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 52 797 caractères · 107 écrans
そのうちに私は誰もいない家に、それも初めてまぐれ込んできた不思議な家で、万一斯うした事件にかかり合うような事があっては大変だと思った。私は誰にも見咎られずにそっと一〇一番の家を出た。往来には数人の男が通っていた計りであったが、気のせいか、向い側の葉の涸落ちた行路樹の陰を歩いていた男が自分を見張っていたように思われてならない。賑かなピカデレー街へ出た。それから裏通りを引返してボンド街へ出ると、先前の男は既う見えなかった。
ボンド街のギャラリイでは絵画の展覧会をやっている。閉場後で鉄柵に広告ビラが立てかけてあった。私は酒場の角を曲って暗い横町へ入った。三人ほどの男が並んで酒場を出てきたが、そのうちの一人は私の姿を見て急に足をとめた。いよいよ本ものの探偵だなと私の胸は早鐘を衝くように鳴出した。私は暗い道を一目散に逃げた。そして首尾よく公園前の十字路へ出ると、遮二無二に乗合自動車へ飛乗った。
市街は白い霧に包まれている。その中を重い自動車は素晴しい音響を立てて疾走している。川岸の工場のわきで私は車を下り、寂しいC町へ向った。私は柏を訪ねてあの夜以来の事件を一切打明けて、力を借りようと思ったのである。