Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ひかげのまち

幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選

松本 泰

Lisez 幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選 (ひかげのまち) de 松本 泰 (まつもとたい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 52 797 caractères · 107 écrans

Aozora Bunko

「君、米国行は止めにしたのか。その荷物は何だい」ようやく起きた計りの柏は、眼を擦りながらいった。私は昨日以来の出来事を語って、その荷物は二三日中にソーホー街八十八番の家へ返しにゆく積りだといい添えた。

「絵画のようだね。開けて見ようじゃあないか」柏は私の返事も待たずに荷物を解きにかかった。最後の包紙を脱った時、

「おや!」私と柏は同音に叫んだ。私共二人の眼を驚かせたのは、展覧会で盗難に遭った「歓の泉」であった。

「何だ、この絵を盗ませたのはガスケル老人なのか。随分変り者だと聞いていたが、詰らない人騒がせをしたものだね」柏は失われた絵が無事に戻ってきたので、小供のように喜んだ。

「君、これは僕のだよ。ガスケル老人が取りにくる迄、僕が預って置く」私は思掛けずにモニカの肖像を手に入れたので再び彼女に邂逅う前兆のような気がして嬉しかった。

私が再び日蔭の街の下宿へ戻ってから、二ヶ月余り経過った。倫敦には春がきた。穏かな街にラベンダア売りの古風な呼声が聞えていた。

其日も空しく歩き廻った私は、橋向うのバタミー公園を抜けて、監獄のあるB街の方へ歩いていった。場末らしい、塵埃ぽい街の角に、「世の終り」