Classiques japonais avec furigana
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かれはむかしのかれならず
彼は昔の彼ならず
Lisez 彼は昔の彼ならず (かれはむかしのかれならず) de Dazai Osamu (太宰 治) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 28 274 caractères · 57 écrans
」
僕は思わず笑わされた。
「いや、ほんとうですよ。かなわないので、こんなに髪を短くしたり、さまざまこれで苦心をしたのですよ。でも、きょうはよくおいでくださいました。」黒ずんでいる唇をおどけものらしくちょっと尖らせて、コップのビイルをほとんど一息に呑んでしまった。
「ずっとこっちにいたのですか。」僕は唇にあてたビイルのコップを下へ置いた。コップの中には蚋に似た小さい虫が一匹浮いて、泡のうえでしきりにもがいていた。
「ええ。」青扇は卓に両肘をついてコップを眼の高さまでささげ、噴きあがるビイルの泡をぼんやり眺めながら余念なさそうに言った。「ほかに行くところもないのですものねえ。」
「ああ。お土産を持って来ましたよ。」
「ありがとう。」
何か考えているらしく、僕の差しだす干物には眼もくれず、やはり自分のコップをすかして見ていた。眼が坐っていた。もう酔っているらしいのである。僕は、小指のさきで泡のうえの虫を掬いあげてから、だまってごくごく呑みほした。
「貧すれば貪すという言葉がありますねえ。」青扇はねちねちした調子で言いだした。「まったくだと思いますよ。清貧なんてあるものか。