Classiques japonais avec furigana
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ぬけがみ
抜髪
小川 未明
Lisez 抜髪 (ぬけがみ) de 小川 未明 (おがわみめい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 1 841 caractères · 4 écrans
戸を開けて見ると、雲が晴れて、空は暗碧だ。古沼に浮いた鏡のように青い月が出た。銀光が戦き戦き泳いで来る。幾万里の間音が亡びて空は薄青い沈黙である。二本の青桐も目醒たように立っている。黒い家もその儘だ。ただ湿れたブリキ屋根に青い光が落ちて、東、西の黒い森にも青みを帯んだ光りは流れていた。
私は暫らく、窓に凭って青い月の光りを受けた黒い家を見ていたが、いうにいわれぬ悲しさがシミジミと胸に湧いた。
「若い女! まだ見ぬ若い女!」ああ、その若い女が恋しい。私はなぜ今迄その女を見なかっただろう。私は余り考え過ぎた。考え過ぎているうちに春も過ぎてしまった。この青い月の光り! もう春でない。淡い夏が来たのでないか。夏? そうだ夏だ。病的な、暗愁の多い春は去て、淡々として白い夏が来たのだ! しかし、もう遅い。春は去てしまった。私は、過去の邪推、疑念、無駄な空想を呪った! 後悔した! 私は始めて、若い女は唇の紅い、髪の緑の、眼の美しい、処女であったということ……そしてその女は、恥しくて姿を隠していたのでないかということを考えた。
醒めよ。春は逝いてしまった! といわんばかりに月の光りは淡かった。