Classiques japonais avec furigana
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ぶんがくいぜん
文学以前
豊島 与志雄
Lisez 文学以前 (ぶんがくいぜん) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 171 caractères · 38 écrans
――誰から聞いた話だか、今私は覚えていない。即ち、その人は忘れてしまったが、その方法、人家ということはよく覚えている。
また、吾々が日常通る道筋、例えば自宅から電車停留場まで行く街路や、勤務先まで行く交通機関や、梯子酒の常習者ならばその飲みまわるコースや、広い家屋ならばその奥の室から湯殿へ行く廊下など、それが一筋でなく幾筋もあり得る場合に、何かのことで一度決定した時、人は大抵いつも同じ道筋を倦きずに繰返すものであって、その習慣は容易に破り難い。犬に等しいのである。
だから……と云ってはあまり飛躍しすぎるけれども、リイラダンの「ヴェーラ」に於て、ダトール伯爵はその最愛の夫人ヴェーラの死後、その居室を彼女の生前の状態通りにし、彼女と二人で暮していた時と同様の日常を続け、そこに閉じこもっていたところ、遂にその室――長椅子、衣裳、煖炉棚、宝石、香料、寝台、花瓶、ピアノ、楽譜、窓掛、其他さまざまのもの、その全体が、彼女の生前同様の雰囲気で生き上り、その中心にある空虚が、次第に凝り、彼女の形態を取り、そこに彼女が身を置けば凡て満たされるばかりになり、而も未だその空虚はそのまま、じっと持ちこたえられて、今や極限に達し、崩壊の危機の瞬間に、彼女と全く同質のその空虚は、忽然と彼女を出現させた……。