Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
」矢代はまた詰めよって云った。
「僕は世界の真似をしてみせてやってるだけだ。真似一つ出来ずに威張ったところで、それや、真似が出来んということだよ。」
「いつまでの猿真似だ。」
と矢代は云うと久慈から身体を放そうとした。
「真似出来んものなら出来るまで一度してみろ。それが修業というものだ。僕らがここのこの坂をせっせとこうして登っているのは、何んのためだ。君は真似も一つして見ずに、この急な坂が登れると思うのか。ふん、ここは胸突き坂だぞ。それも世界の胸突き坂だ。もっと胸を突かれて修業しろ、しろ。チロルでいったい何を君はしてたのだ。」
と久慈は云うと今度は矢代の身体をぐんと突いた。矢代は石壁によろけかかった身体を片手で跳ね返しながら、
「君は歴史という人間の苦しみを知らんのだ。日本人が日本人の苦しさから逃げられるか。逃げるなら逃げてみろ。」
抜刀するような勢いで放れて行こうとする久慈の身体に矢代が再びぶつかって行こうとしたとき、後から登って来た東野は二人を引いた。
「おい、一寸、やってるよ。」
久慈と矢代は振り返って東野の顔を見た。その間にも、大掃除のときの畳を叩くような機関銃らしい連音が少し籠り気味に、遠くの方から鮮やかに聞えて来た。