Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

りょしゅう

旅愁

横光 利一

Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans

Aozora Bunko

矢代は見ていても別に二人の姿が気にかからなかった。板壁に人の凭りかかった油の痕跡が、黝ずんだ影法師となって泛んでいた。彼はその中の一つにも自分の油が滲みついているのを感じた。そして、あれが日本を発つ前の、自分の痛苦懊悩の日日の印刻かと思って懐しかった。彼は指頭で油の影を撫でてみた。

そのうちにまた別の新客が一人、〆縄のような縄暖簾を額で裂いて顕われて、「やア。珍らしい人だね。」と矢代に声をかけた。それも常客の一人で、矢代の知人の田村という美術評論家だった。

「どうだったパリは?」

傍の椅子へよりかかって、慰安かたがた云う田村に、矢代は早速には答えかねた。

「何んだかよく分らないね。あそこはどうも、僕にはむつかしい。」

矢代は田村の猪口を云いつけた。田村はフランス崇拝家の多い中でも少し度を越した人物で、むしろ久慈以上のところがあったから、矢代も迂濶な返事でこの夜の気持ちを壊したくはなかった。

「しかし、面白かっただろう。良いことを君はしたよ。」

「僕はフランス語がよく出来ないからね。僕のは出来ぬ面白さだ。」

矢代は出発前に自分のフランス語の貧弱さを素直に悔い、また知人たちもひそかに彼のその労苦を憐れんでいるのを知っていたから、田村の得意なフランス語に華を与えた譲歩も、酒の場の挨拶としてはしなければならなかった。