Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
」
「そんなこと仰言るなら、あたしとこもだわ。」
先に歩いて行く由吉たちとの距離を延ばしたくどちらも遅く歩きながら、やはり二人きりにならねば真意は話し難いものだと彼は思った。暗い坂路は長くつづいた。木の間からときどき洩れて来る街灯の光りにその都度千鶴子の帽子の紅色のネットが泛き出した。坂下の方から由吉の笑う太い声を遠くに聞き、矢代は、自分と千鶴子の二人の行く路も彼の笑声で随分明るさを増すことだろうと思った。
えびすの駅のプラットホームは光りの海に浮いたように高く明るかった。その眺めは船がどこかの港へ入港するときの展望に似ていて、暫くかたくなな心が自分の体内から溶け流れて行くのを感じ、車内に入るのも彼は惜しまれた。
菊日和のよく冴えた日が幾日もつづき、百舌の鋭い暗き声が空に響き透った。矢代は旅の納めに奈良から京都を廻って来たいと思っていたが、同じ行くなら春になるのを待って九州まで行き先祖の城のあとも見直したくなった。こんなことは前には思ってもみなかったことだのに、それが近ごろ急にこういう滅んだものの憩う姿が見たくなるのだった。山の上の崩れた石垣の間に茂った羊歯や芒など、靴で踏みつけ何も知らずに歩いた幼年のころの旅の記憶を呼び起してみても、ただの荒城とより思えないながら、今見れば少しは前とは感慨も違うであろう