Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
その他の客の姿など少しも見えず、ただ男女の声だけ聞える茫茫とした霧の中に、朝日に映えた薄紅色の山の雪の明るさが射し透った。
矢代はいつも山に向いた位置を撰び背をタイルの縁に寄せ、舞い立つ霧の底でがぼがぼ鳴る湯の音を聞いた。広い山の湯の男女の混浴は隔離した湯よりも、むしろ清浄な山川の匂いが強く肌に染み入り、互に羞らいのない心の爽かさが、また一層朝の人の眼醒めを美しくした。
「冬は暖いとこの温泉へ行きたいが、来てみると、やはり冬は冬景色を見るのも良いものだな。」
とある客の声もした。猪の出たことや、この地の葱の特別の美味さや、馬橇の値の高さなど、湯の中の話を聞くともなく聞きながら、矢代は、朝の雪中の男女の混浴を俗情と見ず、こうしている人人も、健康な日のギリシアにどこか似ているなと思った。そして、また彼は今調べつづけているその文明の滅んだ理由を、湯の中で自然に考えるのだった。
矢代の読んで来たギリシアの滅んだ理由はさまざまであった。小党の分立だとか、社会主義の跋扈だとか、科学の発達から当然に起った農村人の都会化だとか、神神の紛失だとか、歴史家の見方は、それぞれ違った理由を述べたてていたが、彼はそれらを尽くそのまま真実のこととは思えなかった。