Classiques japonais avec furigana
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ぎじんのすがた
日本の怪談
田中 貢太郎
Lisez 日本の怪談 (ぎじんのすがた) de 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 56 030 caractères · 115 écrans
次郎兵衛の墓は、蓮池城の東南麓の畑の中にある。其処には元の次郎兵衛の邸宅を思わすような、千頭(ちかみ)という素封家の邸がある。小さな丘の蓮池城、其処には今でも城の兵糧であった焼米が出るとのことであった。大正九年八月、私はその蓮池城址に登って、その林の中で紅色をした大きな木の子を見つけて、それを採り、其処からおりて、畑の中で村の人がしょうがさまと云っているその次郎兵衛の墓を見た。
渡守の常七は、渡船(わたし)小屋のなかで火を焚きながら草鞋を造っていた。静な晩で、小屋の前(さき)を流れている仁淀川の水が、ざわざわと云う単調な響をさしていた。常七はもう客もないらしいから寝ようと思いながら、藁を縦縄(たたなわ)から縦縄に通していた。
「渡船(わたし)……」
前岸(かわむこう)になった西の堤から大きな声が聞えて来た。常七は草鞋の手を止めた。
「渡船……」
また大きな声が聞えて来た。
「お――い」
常七はその声に釣り込まれて返事をしながら、
「このおそいのに、面倒な奴じゃ」
常七はのっそりと起ちあがって外へ出た。暗い晩で、川の水が処々鉛色に重(おも)光りがして見えた。