Classiques japonais avec furigana
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うつりが
日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江
近松 秋江
Lisez 日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江 (うつりが) de 近松 秋江 (ちかまつしゅうこう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 152 306 caractères · 300 écrans
私は、何の気もなく、どんな人間が帰ってゆくのかと思って、ちょっと起ち上がって縁側の障子を開いて、小さい前栽と玄関口の方の庭とを仕切った板塀の上越しに人の帰るのを見ると、蝙蝠傘を翳して新しい麦藁帽子を冠り、薄い鼠色のセルの夏外套を着た後姿が、肩から頭の方の一部だけわずかに見えたばかりで、どんな人間かよく分らなかった。
そこへ母親も入って来て、
「お帰りやす」と、今度はいつかのとおりに愛想のよい調子で、あらためて挨拶をしながら、「今ちょっと知った呉服屋さんが来てましたので、あんたはんまた顔がさすと悪い思うて、ちょっとここで待ってもらいましたんどす。……階下のお婆さんも今日は出やはりましてお留守どす。さあ、どうぞ二階にお上がりやして」
と、母親は、さっき私が入って来た時、潜戸の中から覗いた時の様子とは、まるで違った調子でいう。
私は、ただ何ということもなく、さっきのその顔色が気になりながら、
「へえ、ありがとう。上がります。……何もこんな雨の降る日に戻って来なくとも好いのですけれど……」といいかけると、母親は、妙に感疑ったか、
「あんたはんのお留守の間に誰か来ている思いやして?」