Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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うつりが

日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江

近松 秋江

Lisez 日本の文学 8 田山花袋 岩野泡鳴 近松秋江 (うつりが) de 近松 秋江 (ちかまつしゅうこう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 152 306 caractères · 300 écrans

Aozora Bunko

そして早く一応宿へ帰って、積日の辛苦を寛げようと思って電車の方に歩いてくると、去年の十二月の初めから、空漠とした女の居処を探すためにひょっとしたら懊悩の極、喪失して病死しはせぬだろうかと自分で思っていた、その居処を突き留めた悦びやら悲しみやらが一緒に込み上げて来て、熱い玉のような涙がはらはらと両頬に流れ落ちた。そして神経がむやみに昂って、胸の動悸が早鐘を撞くようにひびく。寒い外気に触れて頬のまわりに乾きつく涙を、道を行く人に憚るようにしてそっと拭きながら、私は心の中で、

「やっぱり初めからあすこにいたのだ。それを、あの母親の言うことにうまうまと騙されて、ありもせぬ遠くの方ばかし探していた。今のところに変って来る前先の時もあの路次にはもういないというから、そうかと思っていると、やっぱりあすこにいたのであった。今度もまたそうであった。一度ならず二度までも軽々と、あの母親のいうことを真実に受けて、この貴重な脳神経を、どんなに無駄に浪費したか知れぬ」と、口惜しさと憤りとがかっとなるようであった。

それから二、三日の間はつとめて心をほかのことに外らして気を慰め、神経を休めてから今度はよほどの強い決心をしてまたその路次に入って行った。