Classiques japonais avec furigana
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きゅうしゅじん
旧主人・芽生
島崎 藤村
Lisez 旧主人・芽生 (きゅうしゅじん) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 149 813 caractères · 302 écrans
熱のある身体にもこんなことを願って、お房は母に連れられて行った。私も、姪に留守居をさせて、別に電車で病院の方へ行って見た。病室は静かな岡の上にあった。そこは、三つばかりある高い玻璃窓(ガラスまど)の一つを通して、不忍(しのばず)の池(いけ)の方を望むような位置にある。私は本郷の通りでお房の好きそうなリボンを買って、それを土産に持って行ったが、室(へや)へ入って見ると、お房は最早高い寝台(ねだい)の上に横に成って、母に編物をして貰っているところであった。丁度池(いけ)の端(はた)には競馬のある日で、時々多勢の人の騒ぐ声が窓の玻璃に響いて来た。
お房の枕許には、小さな人形だの、箱だのが薬の瓶(びん)と一緒に並べてあった。家内は、寝台の柱にリボンを懸けて見せて、病んでいる子供を楽ませようとした。
「仕舞って置くのよ」
とお房は言った。
私達は、部屋付の看護婦の外に、附添の女を一人頼むことにした。この女は私達の腰掛けている傍へ来て、皆川先生の尽力ででもなければ、一人でこういう角の室を占めることは出来ない、これは余程の優待であると話して聞かせた。
肩の隆(あが)った白い服を着て、左の胸に丸い徽章(きしょう)を着けた、若い肥(ふと)った看護婦が、室の戸を開けて入って来た。