Classiques japonais avec furigana
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はんしちとりものちょう
時代推理小説 半七捕物帳(五)
岡本 綺堂
Lisez 時代推理小説 半七捕物帳(五) (はんしちとりものちょう) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 215 744 caractères · 434 écrans
「おい、庄太。あれを拾って来てくれ」
「なんです」
「あの橙よ」
根太板を剥がれた床下は、芥溜めのように取り散らしてあった。そのなかに一つの大きい橙の実が転げているのを拾わせて、半七は手に取って眺めた。橙には龍という字があらわれていた。近い頃に書いたと見えて、墨の色もまだはっきりと読まれた。
それが火伏せの呪禁であることを半七は知っていた。橙に龍という字をかいて、大晦日の晩に縁の下へ投げ込んで置くと、その翌年は自火は勿論、類焼の難にも逢わないと伝えられて、今でもその呪禁をする者がある。おそらく龍が水を吐くとか、雨を呼ぶとかという意味であろう。この橙のまだ新らしいのを見ると、去年の大晦日に投げ込んだものらしい。その「龍」という字に見覚えがあると、半七は思った。
「ここの家は誰だ」
「夜蕎麦売りの仁助で、その隣りが明樽買いの久八です」と、庄太は答えた。
「隣りにも橙があるか無いか、探してくれ」
庄太は芥をかき分けて詮索したが、隣りの床下には獲物がなかった。内へはいると、庄太の女房も出て来た。ひと通りの挨拶の済んだあとで、半七はかの橙を手の上に転がしながら訊いた。