Classiques japonais avec furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lisez 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 77 492 caractères · 156 écrans
彼は片手で彼女の全身から流れ出す汗を所を択(えら)ばず拭きながら、片手で彼女の口から咳出す啖を絶えず拭きとっていなければならなかった。彼の蹲(しゃが)んだ腰はしびれて来た。彼女は苦しまぎれに、天井を睨(にら)んだまま、両手を振って彼の胸を叩き出した。汗を拭きとる彼のタオルが、彼女の寝巻にひっかかった。すると、彼女は、蒲団(ふ とん)を蹴(け)りつけ、身体をばたばた波打たせて起き上ろうとした。
「駄目だ、駄目だ、動いちゃ」
「苦しい、苦しい」
「落ちつけ」
「苦しい」
「やられるぞ」
「うるさい」
彼は楯(たて)のように打たれながら、彼女のざらざらした胸を撫(な)で擦(さす)った。
しかし、彼はこの苦痛な頂天に於てさえ、妻の健康な時に彼女から与えられた自分の嫉妬(しっと )の苦しみよりも、寧(むし)ろ数段の柔かさがあると思った。してみると彼は、妻の健康の肉体よりも、この腐った肺臓を持ち出した彼女の病体の方が、自分にとってはより幸福を与えられていると云うことに気がついた。
――これは新鮮だ。俺はもうこの新鮮な解釈によりすがっているより仕方がない。
彼はこの解釈を思い出す度に、海を眺めながら、突然あはあはと大きな声で笑い出した。