Classiques japonais avec furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lisez 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 77 492 caractères · 156 écrans
「もう左の肺がありませんし、それに右も、もう余程進んでおります」
彼は海浜に添って、車に揺られながら荷物のように帰って来た。晴れ渡った明るい海が、彼の顔の前で死をかくまっている単調な幕のように、だらりとしていた。彼はもうこのまま、いつまでも妻を見たくないと思った。もし見なければ、いつまでも妻が生きているのを感じていられるにちがいないのだ。
彼は帰ると直ぐ自分の部屋へ這入(はい)った。そこで彼は、どうすれば妻の顔を見なくて済まされるかを考えた。彼はそれから庭へ出ると芝生の上へ寝転んだ。身体が重くぐったりと疲れていた。涙が力なく流れて来ると彼は枯れた芝生の葉を丹念にむしっていた。
「死とは何だ」
ただ見えなくなるだけだ、と彼は思った。暫(しばら)くして、彼は乱れた心を整えて妻の病室へ這入っていった。
妻は黙って彼の顔を見詰めていた。
「何か冬の花でもいらないか」
「あなた、泣いていたのね」と妻は云った。
「いや」
「そうよ」
「泣く理由がないじゃないか」
「もう分っていてよ。お医者さんが何か云ったの」
妻はそうひとり定めてかかると、別に悲しそうな顔もせずに黙って天井を眺め出した。