Classiques japonais avec furigana
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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
Lisez 機械・春は馬車に乗って (はるはばしゃにのって) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 77 492 caractères · 156 écrans
私は氏を剣客だとばかり思っていたのにそれが歌人だったと知ると、俄(にわか)に身近かなものの死に面したような緊張を感じ、粗末な集を先ず開いたところから読んでみた。
「宵月は今しづみゆき山の端(は)におのづ冴(さ)えたる夕なごり見ゆ」
「夕暗(ゆふやみ)に白さ目につく山百合(やまゆり)の匂ひ深きは朝咲きならむ」
月夜に明笛を吹いた剣客であるから相当に高次郎氏は優雅な人だと私は思っていたが、しかし、これらの二首の歌を見ると、私は今まで不吉な色で淀(よど)んで見えた加藤家の一角が、突然爽(さわ)やかな光を上げて清風に満ちて来るのを覚え襟(えり)を正す気持ちだった。
「冷え立ちし夜床にさめて手さぐりに吾子の寝具かけなほしけり」
「井の端にもの洗ひ居(を)る我が妻は啖(たん)吐く音に駆けてきたれる」
この歌など高次郎氏の啖吐く音にも傍まで駆けよって来るみと子夫人の日常の様子が眼に泛(うか)んで来るほどだが、これらの歌とは限らず、どの歌も人格の円満さが格調を強め高めているばかりではない、生活に対して謙虚清澄な趣きや、本分を尽して自他ともどもの幸福を祈ってやまぬ偽りのない心境など、外から隣人として見ていた高次郎氏の温厚質実な態度以上に、はるかに和歌には精神の高邁(こうまい)なところが鳴りひびいていた。