Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

Lisez 次郎物語 (じろうものがたり) de 下村 湖人 (しもむらこじん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 117 781 caractères · 235 écrans

Aozora Bunko

しかし、数学そのものの知識がすぐれているとは、決して言えなかった。というのは、その美しい文字の前で、先生が立往生することはしばしばだったからである。立往生する前には、先生は、きまって、「あの何じゃ」という言葉を何度もくりかえした。生徒たちはよく心得たもので、先生の「あの何じゃ」が頻繁になって来ると、もう黒板から眼をそらし、お互いに鉛筆でつつきあいながら、くすくす笑い出すのだった。そうなると、先生は、いよいよ行詰りの打開が出来なくなるわけだが、しかし時として、先生に、その場合に拠する臨機の妙案が浮かんで来ないこともなかった。それは、くるりと生徒の方を向いて、その大きな掌を、腰の両側に蛙のようにひろげ、

「誰じゃ、笑ったのは。はじめからよく見とらんと、わからんはずじゃが、もう一度最初からやってみせる。ええか、今度はよく注意して見とるんじゃぞ。」

と、さっさと黒板の文字を消してしまうことだった。

次郎は入学の当時、はじめてこの先生が教室に現れて来た時には、その容貌体躯の偉大さに気圧されて、息づまるような気持だった。彼は、先生が出欠をとる間、坂上田村麿をさえ連想していたのである。