Classiques japonais avec furigana
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さつじんき
殺神記
田中 貢太郎
Lisez 殺神記 (さつじんき) de 田中 貢太郎 (たなかこうたろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 3 120 caractères · 7 écrans
元振はいつまでも立っている訳にゆかないので、思いきって上へあがった。
酒宴の準備をして数多の料理を卓の上へ並べた室が見えた。元振はその室の入口へ立って中を窺いた。そこにも人影がなかった。全体こうして酒宴の準備をしておいて、家内の者はどこへ往ったのだろう、ついすると次の室へ集まって、酒宴の前に何か話でもしているかも判らないと思った。彼はその室へ入らずに廊下のような処を通って次の室へ往った。
力のない声で泣いている泣声が聞えた。元振はちょっと立ちどまって耳を傾げたが、中へ入って容子を訊いてみようと思ったので、入口へ往って戸の隙から窺いた。十五六になる若い女が俯伏しになって泣いていた。
「もし、もし、すこしお願いいたします、私は旅の者ですが」
元振がこう言ったが、聞えないのか女は顔をあげなかった。元振は女を驚かしては気の毒だと思ったが、思い切って中へ入った。
女は顔をあげた。顔をあげて元振の方を一目見ると、さも怖ろしそうに顔に袖をあてて体を震わした。
「私は郭元振という者です、宿をとり損ねて日が暮れましたから、是非お宿を拝借しようと思って、門口から声をかけましたけれども、何人もいらっしゃらないから、失礼ですがあがってきました」