Classiques japonais avec furigana
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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Lisez 渡良瀬川 (わたらせがわ) de 大鹿 卓 (おおしかたく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 280 528 caractères · 557 écrans
しかしどの群にも正造を見出すことができなかった。附近の農家へ入りこんでいるのかとも思って堤防を下りてみたが、やはりそこにもいない。伊藤もようやく不審を抱かずにいられなかった。再び堤防へ登って村役場の者を捕えてたずねると、
「さア、さっきまでここにおられたが」と言葉を濁し「まさか、川へ落ちるようなことはないでしょうね」
傍の一人は、川面へ目を投げながら、
「落ちたら大変だ。屈強の若いものでもこの水じゃ助かるかどうか」
伊藤も思わず不安におののく目差しを無気味な川面へ移した。水面は雨脚を跳ねかえしながらぐんぐんと嵩んでくる様子である。人々は口々に田中の名を呼んで騒ぎだした。雨煙りのなかにその呼び交す声が木霊して、ことさら哀切だった。もはや正造の溺死が事実になったような錯覚が人々を捕えだしていた。
だが、その頃、正造は渡良瀬川の増水が気にかかるままに、ただ一人畑地を抜けて北岸の舟津川へ足を急がせていた。
正造が栗原宰次郎の家へ立寄り、彼をさそって河岸へきてみると、渡良瀬は平時の数倍の川幅になって凄じい勢で濁水を押し流していた。風に煽られる雨脚が箒でたたくような飛沫をあげて川面を走っている。