Classiques japonais avec furigana
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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Lisez 渡良瀬川 (わたらせがわ) de 大鹿 卓 (おおしかたく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 280 528 caractères · 557 écrans
「はい、有難う存じますが、こうしてお宮にお仕えして、朝夕の掃除をさせていただいておりましたら、後生もいくらかよかろうかと存じますから……」
老婆は皺だらけの顔に、意外に堅い決意のほどを示して見せた。一同は木蔭の石碑に「登山三十三度大願成就」の文字を一瞥して、またいつ誰がきてこの老婆を慰めることだろうと、あとにこころを残しつつ立ち去った。
やがて巡回を終えて、夕風の身にしむ野辺を帰りかけたが、婦人たちの胸の裡は誰もみな、まだ被害地を見ない以前とはことごとくちがっていた。嘗て演説できき新聞で読んだよりも、数倍数十倍にまさる惨状である。これほどのことを誰が想像し得ただろう。これは誰の罪なのか。どうしたらこれが救われるだろう。彼女たちはこもごもの思いと一日の疲労に踏む足どりも遅々としていた。今までそうとは気づかなかった案内者の姿さえ、大憂を担うものに眺められて、
「なんだか、直訴にでもでかける時のよう……」
松本英子は思わず独り言を呟いた。自分の声にハッとして口を手で塞いだが、前をゆく村人にも、正造にも、それはもちろん聴える距離ではなかった。
一泊して近隣を視察する予定の松本英子を残して、日がえりの婦人たちは、夕闇をついて帰途についた。