Classiques japonais avec furigana
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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Lisez 渡良瀬川 (わたらせがわ) de 大鹿 卓 (おおしかたく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 280 528 caractères · 557 écrans
正造は遠慮するたけ子を送り出して、部屋へもどるとまたもとの座について瞑目した。だが、それも一刻で、目を開くとその挙止は急に静から動へ移った。女中を呼び、俥を命じた。
俥は老樹の黒々とかぶさっている芝山内をぬけて、麻布宮村町へ走った。正造がそんな夜更けに訪ねて来たのは、万朝報の記者幸徳伝次郎の寓居であった。門はすでに固くとざされていたが、二階の雨戸に燈火の洩れるのを頼りに、声をかけ、戸をたたいた。かねて万朝報が鉱毒問題に深く同情を寄せた記事をかかげていた関係や、毎日新聞の木下尚江、石川半山を通じて、正造もすでに面識の間柄ではあった。それにしてもこの深夜の訪問は、突然の思いつきとすれば余りにぶしつけだった。いや、それは、正造の胸中深くに確と予定されていたことであり、今夜にさし迫って、躊躇のゆるされぬ事情が秘められていたのである。
幸徳は思いがけない正造の来訪を不審に思いつつ、丁寧に二階の書斎へ招じ入れた。座蒲団を裏返してすすめ、火鉢の埋火をかきたてて対坐した。痩せた小柄な幸徳は、神経のピリピリした横顔にランプの暗い火影を受けながら、前に会ったときより一段と憔悴の見える正造の顔を見つめつつ、静かに用談の切りだされるのを待った。