Classiques japonais avec furigana
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しろくれない
白くれない
夢野 久作
Lisez 白くれない (しろくれない) de 夢野 久作 (ゆめのきゅうさく) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 24 846 caractères · 50 écrans
わが気力の衰へたるは、此程、久しく人を斬らざる故にやあらんずらん。さらば此男の血を見たらむには、わが気力も昔に帰りてむかなぞ、日毎に思ひめぐらし行くうちに此の三月の中半の或る日の事なりき。
頬冠りしたる彼の馬十、鍬を荷ぎてわが居る方丈の背面に来り、彼の梅の古木の根方を丸く輪形に耕して、豆のやうなる種子を蒔き居り。その上より下肥を撒きかけて土を覆ひまはるに、その臭き事限りなく、その仕事の手間取る事、何時果つべしとも思はれず。
われ思はず方丈の窓を引き開きて言葉鋭く、何事をするぞと問ひ詰りしに、馬十かたの如く振り返り、愚かしき眼付にてわれを見つめつゝ、もや/\と嘲み笑ふのみ。頓には応へもせず。やがて不興気なる面もちにて黄色なる歯を剥き出し、低き鼻尻に皺を刻みつ。這は和蘭陀伝来のくれなゐの花の種子を蒔くなり。此等の秘蔵の種子にして奈美殿の此上なく好み給ふ花なり。此村の名主の家のほか他所には絶えて在る事無し。此処に蒔き置けば、夏の西日を覆ひ、庭の風情ともなるべきぞや。去年の春、此処へ迷ひ来給ひし時、見知り給ひしなるべし。毎年の事なり。暫く辛棒し給へ。臭くとも他人の垂れしものには非ざるべしと云ふ。