Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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まなつのげんかく

真夏の幻覚

岡本 かの子

Lisez 真夏の幻覚 (まなつのげんかく) de 岡本 かの子 (おかもとかのこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 970 caractères · 2 écrans

Aozora Bunko

私は、痴呆の無感覚にだんだん隔って行く自分をうつらうつら無意識と意識の境いに置きながら佇っていた。

新吉が普請場の屋根から落ちたのである。新吉は、工人の中でも一番若い二十三歳の青年であった。

ええぞ、ええぞ、

と新吉も他の工人とうたっていたのであった。その新吉が何故、普請場の足場丸太から足を滑らせたのか――新吉は、幻覚という言葉は知らなかったが、それと同じ表現を新吉の持つだけの語彙を使って私が入院させた病院のベッドの上でせいぜい私に云ってみた。

――何か、素晴しく偉大なもの、有がたいもの、懐しいもの、恋しいもの、やり切れないもの、恐ろしいようなもの、黙ってじっとしていられない圧迫のようなもの、かっと怒り度いもの、身ぶるいをして泣き出し度いようなもの、打突かって破壊し度い。そして追いついて行って縋り付き度いようなもの――

新吉は、突然、真夏の午後の熾烈な日光のもとで地上幾十尺かの空中の仕事の最なかにその幻覚の質か量かの区別もつかぬ不思議な正体に襲われたのである。

その刹那、新吉は足場丸太から足を踏み外し、地上に落ちて右の腓骨を打ったのである。