Classiques japonais avec furigana
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やのしのとい
矢押の樋
山本 周五郎
Lisez 矢押の樋 (やのしのとい) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 14 468 caractères · 29 écrans
――埒もない、なんという馬鹿な、悪戯を。
重太夫はそう思いながら、なお暫く黙って見ていると、やがて若者は静かに両耳へ唾を含ませ、石垣を伝いながらずぶりと水の中へ入って行った。……正に矢押梶之助である、むろん彼の方では、重太夫が見ていることなどは知らない、巧に濠の北側の方を泳ぎ廻っていたが、やがてひょいと身を翻えして水中へ潜った、十呼吸ほどして浮上ったと思うとまた潜る、如何にも独り悠々と水に戯れている感じだ。
三度めに浮上ったとき、
「なにをして居られる、矢押どの」
重太夫が鋭く呼びかけた。……梶之助は振返って、慌てて潜ろうとしたが、もういちど烈しく名を呼ばれたので観念したか、ひどく具合の悪そうな泳ぎ振りで戻って来た。
「早く上って来られい」
「……唯今」
急きたてられるのを構わず、悠々と上って来た梶之助は、其処でまた髪毛を押絞ったり、耳の水を切ったりしている、……重太夫は斜面を下りて行った。
「場所柄を憚らずなんという事をなさる」
「……はあ」
「世間の有様を考えたら、独り水練などしている場合ではござるまい、それも野外遠くででもあれば格別、この内濠で水浴びなどとは不心得せんばん、余人に見られたらなんとなさる」