Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lisez 私本太平記 (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 126 598 caractères · 254 écrans
ところが。――その豊麻呂もなかなか戻って来なかった。すでに午すぎ。やっと帰っては来たが、その姿は、朝にもまして疲労と埃にまみれていた。
「どうした? 豊麻呂」
「なんとも、解せぬことになりました。八荒坊が討たれたらしい形跡もなく、頼春と菊王の安否の程もわかりません」
「さては、不首尾か」
「が、部下どもの探りによれば、天見の辺では、八荒坊にもあらぬ偽山伏の放免の死骸が、幾つか見られ、そのどれもが、みな矢キズを負っていたと申しまする」
「はての。二人は、弓は持たなかったはず。さらには、同類の偽山伏が、ほかにも大勢いたとすれば、何ぞの手違いが、起ったものに相違ない」
「されば、放免どもはいつか、弁ノ殿がここにお潜みのことまで偵知したらしく、日頃から居る地元の諜者もみな挙げて、ここの出屋敷のぐるりを見張っておりまする」
「なに、ここをも?」
俊基は、愕とした。
すべては破綻か、と思わぬわけにゆかなかった。そして常々、ふところの深くに持っていた一包の毒薬が、すぐ意識となって、肌の毛穴に、人知れず、覚悟をそそけ立たせてくる。
いちどは鎌倉に囚われた前科の身だ。絶体絶命とみたら、いつでも護持する綸旨を灰として、自身は毒を仰服ぐ決意を秘めていたのである。