Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(三) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 222 108 caractères · 446 écrans
上では、
「すわ」
と見た城兵の顔が、土塀、櫓、楯、さまざまな障碍物の蔭などから覗いている。
一せいな矢の雨も、頃を計っているのらしい。ムダ矢を嫌う風なのだ。やがて、寄せ陣の敵が、傾斜を必死に這いのぼり、あらまし断崖の半ばごろにいたると、城中にも合図の鼓や鉦が鳴りとどろき、傾斜全面にわたって、乾いた土砂が濁流のようになだれて来る。
怪我はしないが、土砂との闘いはしまつが悪い。そのころ矢は的確にそそぎ初め、射る矢射る矢が敵をさらッて、ごろごろカラ濠へころげてゆく。
「つづけ、怯むな」
寄せ手のほこる兵量が、二陣三陣とさらに崖の全面をおおいつくせば、むしろそれは城方の好餌であった。大木、岩石の雨が、轟然と、彼らの頭上に降りかかって来る。
こんな繰返しの十日間ほどに、幕軍はもう全く手を焼いていた。――地勢が狭隘なので、大軍もいちどにはつかえない。小出しでかかれば、みなごろしの惨に会う。
しかし、城兵の姿も顔も、はやこの世のものとは見えなかった。
すでに、笠置の破れが聞えただけでも、士気の銷沈はいなみようなくいたところへ、またも意外な一事件が城中には起っていた。