Classiques japonais avec furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Lisez 私本太平記(四) (しほんたいへいき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 229 324 caractères · 458 écrans
「いやこの身とて、生きてはいられない」
小宰相は夕風を抱いた。いつからこんな気もちに変ってきた自分かと、自分をあやしむゆとりもなかった。――彼女とすれば、いま遠廻りの小道を曲がって来たように、ちっとも不自然ではなかったのである。そして、過去にもっていた“女目付”の役などは振り返りもしていなかった。
「黒木の御所は」
と、兵はやがて足をとめた。
「そこでおざる。明朝、お迎えにまいるまでは、ごゆるりと」
彼女を残して立ち去った。
廂のおくを窺うと、一室の簾のうちに、小さい灯影がまたたいている。外に立ち惑うらしい彼女の影をみると、
「お待ちですよ」
と、童僕の金若がすぐほの暗い中から言った。
「オ、金若か」
「はい」
「昼のうちに、私のことは、ここへお知らせがあったのですね」
「はい」
「みかどは」
金若は黙ッて奥の灯を指した。
「小宰相か」
ふっくらと情のこもったお小声だった。
後醍醐もこの宵は“待つ宵の男”みたいな、そぞろ心地でお待ちだった。
「もう、どんなに」
と彼女は、身を崩折るなり、
「……お目にかかりたさで、苦しかったかしれません」
と、帝の腕へ、我からも手繰り寄って、そのお膝へ顔を埋めてしまった。