Classiques japonais avec furigana
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たんでき
耽溺
岩野 泡鳴
Lisez 耽溺 (たんでき) de 岩野 泡鳴 (いわのほうめい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 55 597 caractères · 110 écrans
戸々に立ち働いている黒い影は地獄の兵卒のごとく、――戸々の店さきに一様に黒く並んでるかな物、荒物、野菜などは鬼の持ち物、喰い物のごとく、――僕はいつの間に墓場、黄泉の台どころを嗅ぎ当てていたのかと不思議に思った。
たまたま、鼻唄を歌って通るものに会うと、その声からして死んだものらの腐った肉のにおいが聴かれるようだ。
僕は、――たとえば、伊邪那岐の尊となって――死人のにおいがする薄暗い地獄の勝手口まで、女を追っているような気がして、家に帰った。
時計を見ると、もう、十時半だ。しかし、まだ暑いので、褥を取る気にはならない。仰向けに倒れて力抜けがした全身をぐッたり、その手足を延ばした。
そこへ何物か表から飛んで来て、裏窓の壁に当ってはね返り、ごろごろとはしご段を転げ落ちた。迷い鳥にしてはあまりに無謀過ぎ、あまりに重みがあり過ぎたようだ。
ぎょッとしたが、僕はすぐおもて窓をあけ、
「………」誰れだ? と、いつものような大きな声を出そうとしたら、下の方から、
「静かに静かに」と、声ではなく、ただ制する手ぶりをした女が見える。吉弥だ。
僕はすぐ二階をおりて外へ出た。