Classiques japonais avec furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 133 224 caractères · 269 écrans
沿道の商店からは蓄音機やラヂオの声のみならず、開店広告の笛太皷も聞える。盛に油の臭気を放っている屋台店の後には、円タクが列をなして帰りの客を待っている。
ふと見れば、乗合自動車が駐る知らせの柱も立っているので、わたくしは紫色の灯をつけた車の来るのを待って、それに乗ると、来る人はあってもまだ帰る人の少い時間と見えて、人はひとりも乗っていない。何処まで行くのかと車掌にきくと、雷門を過ぎ、谷中へまわって上野へ出るのだという。
道の真中に突然赤い灯が輝き出して、乗合自動車が駐ったので、其方を見ると、二、三輌連続した電車が行手の道を横断して行くのである。踏切を越えて、町が俄に暗くなった時、車掌が「曳舟通り」と声をかけたので、わたくしは土地の名のなつかしさに、窓硝子に額を押付けて見たが、木も水も何も見えない中に、早くも市営電車向嶋の終点を通り過ぎた。それから先は電車と前後してやがて吾妻橋をわたる。河向に聳えた松屋の屋根の時計を見ると、丁度九時……。
昭和十一年四月