Classiques japonais avec furigana
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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
Lisez 荷風随筆集(上) (かつしかみやげ) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 133 224 caractères · 269 écrans
運送屋の広い間口の店先には帳場格子と金庫の間に若い者が算盤を弾いていたが人の出入りは更に見えない。鼠色した鳩が二、三羽高慢らしく胸を突出して炎天の屋根を歩いていると、荷馬の口へ結びつけた秣桶から麦殻のこぼれ落ちるのを何処から迷って来たのか痩せた鶏が一、二羽、馬の脚の間をば恐る恐る歩きながら啄んでいた。人通は全くない。空気は乾いて緩に凉しく動いている。
自分はいつも忙しかるべきこの横町の思いもかけぬ夜のような寂寞と沈滞とに、新しい強い興味に誘われながら歩いて来た時、立続く倉の屋根に遮られて見えない奥の方から勢よく長唄の三味線の響いて来るのを聞いたのである。炎天の明い寂寞の中に二挺の三味線は実によくその撥音を響かした。
自分は「長唄」という三味線の心持をばこの瞬間ほどよく味い得た事はないような気がした。長唄の趣味は一中清元などに含まれていない江戸気質の他の一面を現したものであろう。拍子はいくら早く手はいくら細くても真直で単調で、極めて執着に乏しく情緒の粘って纏綿たる処が少い。しかしその軽快鮮明なる事は俗曲と称する日本近代の音楽中この長唄に越すものはあるまい。