Classiques japonais avec furigana
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くらのにかい
蔵の二階
豊島 与志雄
Lisez 蔵の二階 (くらのにかい) de 豊島 与志雄 (とよしまよしお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 13 351 caractères · 27 écrans
そのような話をしたあとで、カヨはぽつりと言った。
「あすこから、わたしの実印を、大川に投げ込んできました。もう安心ですよ。」
嘘の気はみじんもない言葉の調子だった。不動様も、とげぬき地蔵様も、実印の一件に重みをつける役に立ったのである。それにしても、カヨはどんな風に印形を川に沈めたのであろうか。橋の上につっ立ち、手を振り上げて、投げ込んだか。または、欄干によりかかり、水の上を覗きこんで、ぽとりと落したか。たぶん後の方だろう。紫水晶の小さな印形だった。
そのことを、桂介は久子から聞いて、眉をひそめた。カヨになおただしてみると、カヨは何かを嘲けるように頷いた。
「誰がねらっても、この家だけはもう大丈夫です。」
それでもカヨは、白猫を抱いて日向ぼっこに表へ出ることは、少くなった。もう樹々の若芽も出かかっているのに、二階の薄暗い室に籠りがちなのである。
ところが或る日、彼女は炊事場をかきまわし、久子を呼んで、塩はこれきりかと尋ねた。小さな壜に少ししかはいっていない。久子は塩の壜を持ち出した。それで全部なのだ。家にありったけのその塩を、カヨは笊にあけ、黙って、裏の笹藪の方に出て行く。