Classiques japonais avec furigana
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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池 寛
Lisez 藤十郎の恋・恩讐の彼方に (とうじゅうろうのこい) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 37 146 caractères · 74 écrans
のような小僧と、十七八の娘風の女とが、歩いて来るばかりで、染之助らしい年配の男は、眼に付かないのですよ。私は、染之助の事ばかりを考えていたので、娘の言葉を聞き違えたのであろうと、内心恥しくなったけれど、念のためだと思ったから、その色の蒼い小男の後をついて行ったのですよ。すると、その男は観音様の境内へ入って、今仲見世のある辺にあった、水茶屋へ入るじゃないか。私も何気ない風をして、その男の前に、三尺ばかり間を隔いて腰をかけたのです。男は八丈の棒縞の着物に、結城紬の羽織を着ていたが、役者らしい伊達なところは少しもないのですよ。私はきっと、人違いだと思いながら、何気なく見ていると、物の云い方から身の扱し方まで、舞台の上の染之助とは、似ても似つかぬほど、卑しくて下品で、見ていられないのですよ。こんな男が、染之助であっては堪らないと思っていると、丁度其処へ三尺帯をしめた遊人らしい男が、二人連で入って来て、染之助を見ると、
『やあ! 染之助さん、芝居の方はもう閉場ましたかい』と、云うじゃないか。私は身も世もないように失望してしまいました。染之助の美しさは、舞台の上だけのまぼろしで、本当の人間はこんなに醜いのかと思うと、私は身を切るように落胆したものですよ。