Classiques japonais avec furigana
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おどるちへいせん
踊る地平線(上)
谷 譲次
Lisez 踊る地平線(上) (おどるちへいせん) de 谷 譲次 (たにじょうじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 168 926 caractères · 332 écrans
なんだから、たといどんなに素晴らしい美人だと力説したところで一こう不思議はないわけで、どうだい、驚いたろう。
名もわかっている。マアセルというのだ。
そしてこのマアセルは、怒涛のように日夜「モナコの岸」へ押し寄せてくる常連の誰かれにとって、すこしでも彼女の内生活への覗見を持つことは、そのためには即死をも厭わない聖なる神秘であった。とだけ言っておいて、先へ進む。
ところで、二十五、六の豊満な金髪美人マアセルだが――。
も一度、最初からはじめよう。
誰も居ない真っ暗な部屋だった。しばらくするとがちゃがちゃと鍵の音がして、戸があいた。廊下の光りが流れ込んだ。それと一しょに人影が這入って来た。人影は女だった。女は、手さぐりに壁のスイッチを捻った。ぱっと明るい電灯の洪水が部屋を占めて、桃色に黒の点々のある壁紙が一時に浮き立った。部屋はマアセルの寝室だった。女はマアセルだった。
マアセルは今日夕方の番だったので、いま「モナコの岸」から、近処に貸りてる自分の部屋へ帰って来たところである。
あたふたと自室へはいってきたマアセルは、うしろの戸をばたんと閉めて鍵をかけると、これで完全に自分ひとりになった安心のため、急に仕事の疲れが出て来たようにすこしぐったりとなった。