Classiques japonais avec furigana
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じゅうきちひょうりゅうきぶん
重吉漂流紀聞
久生 十蘭
Lisez 重吉漂流紀聞 (じゅうきちひょうりゅうきぶん) de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 26 456 caractères · 52 écrans
三人で甲板へ出て、来る日も来る日も魚の便を待ったが、そうなっては雑魚もかからない。豆の粉を水で溶いて日々の糧にするむかしの境界にたちかえったことで、二人は気落して病人のようになり、またぞろ寝框へ入ったきり動かなくなってしまった。
その年も暮れ、二度目の元日の朝になった。去年の元旦には、形ばかりの〆飾をこしらえたりしたが、もうそんな気もない。二人は艫ノ間、重吉は表ノ間に分れ分れになって暮し、めったに顔のあうこともない。元日くらいはと、艫ノ間へ年賀を言いに行ったが、二人は手枕で寝たまま返事もしない。
重吉は甲板へ上がって朝のつとめをし、いつものように舳の垣根に肱をつき、鬱々と東のほうを眺めていると、はるか水天一髪の間に、島山とも見えるほのかなたたずまいに眼を射られた。山かと思えば山のようでもあり、雲かと思えば雲のようでもある。その日一日、眺め暮らし、見たとおりの山の形を板切れに消炭でなぞっておき、翌朝、明けきらぬうちに甲板へ出て眺めかえすと、昨日見た形とちがわない。まごうかたなく陸地のすがたなので、さっそく二人をよろこばしてやろうと思ったが、いまところ、島岸のなりを遠望したというだけで、帆も舵もないこの船が、しあわせよく漂い着けるかどうか、それさえさだかでない。