Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
ぎんさんじゅうまい
銀三十枚
国枝 史郎
Lisez 銀三十枚 (ぎんさんじゅうまい) de 国枝 史郎 (くにえだしろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 35 863 caractères · 73 écrans
私の精神も肉体も、磨り減らされるだけ磨り減っていた。長い間物を書かなかった。空想がすっかり消えてしまった。病気はひどく進んでいた。心臓の動悸、指頭の顫え、私は全然中風のようであった。視力が恐ろしく衰えてしまった。そうして強度の乱視となった。五分と物が見詰められなかった。絶えずパチパチと瞬きをした。瞼の裏が荒れてしまった。
誰も介抱してくれなかった。
お母様! お母様!
実家とは音信不通であった。それも彼女との結婚からであった。高原信濃! そこの実家! 誰とも逢わずに死ななければなるまい。
「もう一呼吸だ。指先でいい。ちょっと背後から突いてくれ。死の深淵へ落ちることが出来る」
私は私の両膝を、ロハ台の上へ抱き上げた。膝頭へ額を押っ付けた。小さく固く塊まった。
「もう一呼吸だ。指先でいい」
その時自動車の音がした。
私は反射的に飛び上った。
病院の方角から自動車が、こっちへ向かって駛って来た。私の眼前を横切った。紳士と淑女とが乗っていた。淑女は私の妻であった。紳士は例の紳士ではなかった。もっと評判の悪い紳士であった。デパートメントの主人であった。外妾を持っているということで新聞へ書かれた紳士であった。