Classiques japonais avec furigana
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うし
鎧櫃の血
岡本 綺堂
Lisez 鎧櫃の血 (うし) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 48 702 caractères · 99 écrans
」
「それはよいことをなされました。」と、婆さんはうなずいた。「お参りのついでにどこへかお廻りになりましたか。」
「お察しの通り、帰りには奈良から京大阪を見物して来ました。こんな長い旅はめったに出来ないので、東海道、帰りには中仙道を廻ることにして、無事ここまで帰って来ました。」
「それではお宿へのおみやげ話もたくさん出来ましたろう。」
「風邪も引かず、水中りもせず、名所も見物し、名物も食べて、こうして帰って来られたのは、まったくお伊勢さまのお蔭でございます。」
年ごろの念願もかない、愉快な旅をつづけて来て、七兵衛はいかにものびやかな顔をして、温かい茶をのみながらあたりの春景色を眺めていると、さっきから婆さんと客の話の途切れるのを待っていたらしく、店さきの山桜の大樹のかげから、ひとりの男が姿をあらわした。かれは六十前後、見るから山国育ちの頑丈そうな大男で、小脇には二、三枚の毛皮をかかえていた。
「もし、お江戸のお客さま。熊の皮を買って下さらんかな。」と、彼は見掛けによらない優しい声で言った。
熊の皮、熊の胆を売るのは、そのころの木曾路の習いで、この一行はここまで来るあいだにも、たびたびこの毛皮売に付きまとわれているので、手代の義助はまたかという顔をして無愛想に断った。