Classiques japonais avec furigana
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に、さんば――じゅうに、さんば
鏡花短篇集
泉 鏡花
Lisez 鏡花短篇集 (に、さんば――じゅうに、さんば) de 泉 鏡花 (いずみきょうか) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 33 305 caractères · 66 écrans
私はちょっと其処へ掛けて、会釈で済ますつもりだったが、古畳で暑くるしい、せめてのおもてなしと、竹のずんど切の花活を持って、庭へ出直すと台所の前あたり、井戸があって、撥釣瓶の、釣瓶が、虚空へ飛んで猿のように撥ねていた。傍に青芒が一叢生茂り、桔梗の早咲の花が二、三輪、ただ初々しく咲いたのを、莟と一枝、三筋ばかり青芒を取添えて、竹筒に挿して、のっしりとした腰つきで、井戸から撥釣瓶でざぶりと汲上げ、片手の水差に汲んで、桔梗に灌いで、胸はだかりに提げた処は、腹まで毛だらけだったが、床へ据えて、円い手で、枝ぶりをちょっと撓めた形は、悠揚として、そして軽い手際で、きちんと極った。掛物も何も見えぬ。が、唯その桔梗の一輪が紫の星の照らすように据ったのである。この待遇のために、私は、縁を座敷へ進まなければならなかった。
「麁茶を一つ献じましょう。何事も御覧の通りの侘住居で。……あの、茶道具を、これへな。」
と言うと、次の間の――崖の草のすぐ覗く――竹簀子の濡縁に、むこうむきに端居して……いま私の入った時、一度ていねいに、お時誼をしたまま、うしろ姿で、ちらりと赤い小さなもの、年紀ごろで視て勿論お手玉ではない、糠袋か何ぞせっせと縫っていた。