Classiques japonais avec furigana
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ゆきとどろ
雪と泥
山本 周五郎
Lisez 雪と泥 (ゆきとどろ) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 19 993 caractères · 40 écrans
相手の男はけもののように喘ぎ、刀を持ったままうしろへさがった。
折之助は走りだした。
――逃げるんだ、早く。
雪が口の中へとびこんだ。三四間走ると、急に眼が眩み、吐きけにおそわれながら、横さまに倒れた。そこは堤の端だったので、倒れるとそのまま、斜面を辷って堤の下まで転げ落ちた。
「逃げるんだ」彼はすぐに起きようとした、「早く、さもないと捉まるぞ」
だが躯の自由がきかなかった。むりに起きようとすると、ずるずると滑って、殆んど堀へ落ちそうになった。彼は左手で地面を掻きさぐり、枯れた草の根を掴んだ。頸の脇から噴き出す血が、みるみるうちに、雪をどす黒く染めていった。
「できたよ、おしの」と彼は呟いた、「しかも二百両、……ほら、ここにある」
彼は掴んでいる草の根を揺すった。
「待っておいで、すぐにゆくからな、もう大丈夫だ、これで、……なにもかもよくなるよ」
堤の上はひっそりしていた。そして、やがて山の宿のほうから、とばして来る駕籠の、けいきのいい掛声が近づいて来た。
「だからあたしがそう云ったでしょ、世間にはそうそう鴨ばかりいるもんじゃないって」おつねが針へ糸を通しながら云った、「あんたは縹緻も頭もいいし、自分でも凄腕だと思ってるだろうけれど、そういう人ほど却ってひっかかりやすいもんだからね」