Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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いずこへ

風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇

坂口 安吾

Lisez 風と光と二十の私と・いずこへ 他十六篇 (いずこへ) de Sakaguchi Ango (坂口 安吾) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 119 879 caractères · 242 écrans

Aozora Bunko

私はその言葉を忘れたが、それは恋人に対してのみ用いる種類の甘ったるい言葉であった。

校正の日、同人全部印刷所へつめていたが、まさしくその日は日曜であり、矢田津世子のみ、真杉静枝か河田かに校正をたのみ、姿を見せていなかった。その日曜が矢田津世子にどういう日かは、あらゆる同人が知っていたのだ。

座談会の例の一言に、河田だか、田村だか、井上だか、ふきだして、これは凄いね、このままケズらず載せたものかね、と見廻すと、真杉静枝が間髪を容れず、ケズることないわ、ホントにそう言ったのですもの、と叫んだ。それは低いが、強烈な語気で、私はその後ずいぶん真杉さんとはおつきあいしたが、このような激しい語気はほかにきいたことがない。深い憎しみが、こめられていた。

私は然し、わが身の如くに、切なかったのだ。私が憎まれているが如くに。私は矢田津世子をあわれみ、真杉静枝をむしろ呪った。同時に真杉静枝に内心深く感謝したのは、私も切に、この言葉のケズられざらんことを乞い、祈っていたから。

その一言は、私にとっては、絶望の中の灯であったのだ。悲しい願いがあるものだ。この一言が地上に形をとどめて残ってくれますように。