Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖 (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 56 957 caractères · 114 écrans
原士の乱刃が迫っていた。
で――弦之丞はその寸隙を惜しんだのであろう。周馬へまいる余地のある太刀を、ヒラリと返して横へ駈けるや、そこに仆れていた万吉の縄目を、プツリと斬って孫兵衛と一角のほうを防いだ。
何か、異様な叫びをあげて――まったく何を叫んだか分らない――はね上がった目明しの万吉は、お綱のそばへ転げて行って、次にかれの縄を切った。
猿ぐつわを振りほどくと、お綱は、吾を忘れて、弦之丞の名を呼んだ。
弦之丞も、無論、それをお綱の声と聞いたであろう。だが、周馬、一角、お十夜――こう三人の鋭刃を前にして、かれは死力に汗をしぼっていた場合であるから、或いは、聞こえなかったかも知れない。
万吉は新手の意気ごみで、道中差の鞘を払った。お綱もまた、母のかたみであり、剣山に辿りついた時、父の世阿弥に名のるべき唯一の証として、愛護してきたあの銘刀へ手をかけた。
かくて――
春月を隠した美しい金剛雲の下で、その夜、惜し気もなく犠牲に散らされた鮮血が、どこまで、もちの木坂満地の若草を紅にしたことか? ……。
やがて、刃影の跳躍も、一場の夢幻となってかき消えた。そして、木曾の往還は何ごともなかったように夜が明ける。