Classici giapponesi con furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Leggi おせん di 邦枝 完二 (くにえだかんじ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 74.074 caratteri · 148 schermate
ばらりと解いたお七の帯には、夜毎に焚きこめた伽羅の香りが悲しく籠って、静かに部屋の中を流れそめた。
「ああ。――」
おせんはその帯を、ずッと胸に抱きしめた。
「おせんや」
お岸は優し眼をふせた。
「あい」
「おまえ、一人で行く気かえ」
「あい」
衣装を脱がせて、襦袢を脱がせて、屏風のかげへ這入ったおせんは、素速くおのが着物と着換えた。と、この時格子戸の外から降って湧いたように、男の声が大きく聞えた。
「おせんさん、仮名床の伝吉でござんす。浜村屋の太夫さんが、急病と聞いて、何より先にお知らせしてえと、駕籠を飛ばしてやってめえりやした。笠森様においでがねえんでこっちへ廻って来やした始末。ちっとも速く、葺屋町へ行っとくンなせえやし」
「親方、その駕籠を、待たせといておくんなさい」
「合点でげす」
おせんの声は、いつになく甲高かった。
四
人目を避けるために、わざと蓙巻を深く垂れた医者駕籠に乗せて、男衆と弟子の二人だけが付添ったまま、菊之丞の不随の体は、その日の午近くに、石町の住居に運ばれて行った。
が、たださえ人気の頂点にある菊之丞が、舞台で倒れたとの噂は、忽ち人から人へ伝えられて、今は江戸の隅々まで、知らぬはこけの骨頂とさえいわれるまでになっていた。