Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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このにぎりめし

この握りめし

岸田 国士

Leggi この握りめし (このにぎりめし) di 岸田 国士 (きしだくにお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 13.649 caratteri · 27 schermate

Aozora Bunko

「おれは、ゆうべは、たしかに参つた」

「将棋のことか?」

「いや、人生の勝負でだ。人間とはお前のことなのだ」

「おそろしくおだてるな。おれがいつたいなにをしたというんだ?」

「あの握り飯……おれはあんな握り飯がこの世の中に在ることを、すつかり忘れていたんだ」

「代用食の癖がついてるんだ」

「おれの頭は警察法規の活字でいつぱいだつた。たしかに、お前が、握りめしをといつた言葉は耳にはさんだ記憶がある。しかし、あの時、それがなんのことだか、さつぱり、ぴんと来なかつたんだ」

「おれの頭は蛙のように空つぽなんだ。飲むこと食うことばかり考えてる人間なんて、あんまり感心はできないよ。それより、お前は、およそ立派なお巡さんだ。いや、皮肉じやない。こうして、おれのところへ、そんなことを言いに来る奴が、ほかにいるかい。なんでもいゝ、おれは上州の生れじやないが、人間、人前であつさり兜が脱げるようなら、まずつき合えるとみてるよ。まして、よそう、もう警官のことを云々するのは、おい、そんなのおかしいよ、はなをかめ、はなを……」

増田健次は、岡本の顔をみていると晴れやかにほゝえむつもりで、涙が出て来たのである。