Classici giapponesi con furigana
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やぶからし
やぶからし
山本 周五郎
Leggi やぶからし di 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 22.476 caratteri · 44 schermate
――そして、拭き終って肌を入れていると、襖をはずしてある隣り座敷から、一人の男がはいって来た。わたくしはいそいで衿を直しながら、咎めるように男を見た。このうちの者かと思ったが、そうではないらしい。垢じみたよれよれの単衣に三尺をしめ、月代も髭も伸びたままの、みじめに薄汚れたなりかたちで、両手を衿から入れて腕組みをしてい、そのため胸が殆んどあらわにみえた。
「思いだせないかね」と男は云った、「おめえの亭主だぜ」
潰れた喉から出るような乾いたしゃがれ声で云い、男はにっと歯をむきだして笑った。わたくしは男の言葉を聞きながら、あらわになった胸の上に、ひとかたまりまばらな毛が生えているのを見て、はっと息が止った。
「道で二、三度もすれちがったんだが、わからなかったらしいな」と男は云った、「尤もあしかけ十年も経つし、こっちはこのとおりの恰好だからむりはねえがね」
わたくしは口がきけなかった。
「子守りが戻って来るようだな」と男は云った、「――済まねえが明日、ここへ五両持って来てくれ、時刻はいまじぶんがいいだろう、待っているぜ」
そしてすばやく、わたくしの返辞も待たずに、元の座敷から去っていった。