Classici giapponesi con furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Leggi キャラコさん di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 32.972 caratteri · 66 schermate
保羅はクッションにぐったりと背をもたせかけたままひとことも口をきかない。自分だけの物思いに深く沈潜しているようだった。
キャラコさんは、レエヌさんの手紙を膝のうえにひろげ、薄暗いドーム・ランプの光でいくどもいくども読みかえす。
「悲しいわ」
じぶんの楽しかった時代を信じることができないという悲しさは、いったい、どんなだろうとつくづくに思いやる。それは、いま死にかけている、不幸だったひとだけが感じうる、やるせない懐疑なのであろう。
キャラコさんは、それをそっくり理解することはできないが、悲しみの深さだけはわかるような気がする。こまごまと思いやるよりも、あわれさのほうが先に立って、つい、ほろりとしてしまうのだった。
卅分ほどののち、自動車は競馬場の柵のそばでとまった。夏草ばかり繁ったさびしいところで、右手の闇の中に、ポツリとひとつだけ灯が見える。
保羅は、キャラコさんのほうを向くと、ブッキラ棒な調子で、
「あれです」
と、顎でそのほうを指した。
斜面についた細い坂道をのぼってゆくと、行きとまりの小さな雑木林の中にその建物が建っていた。闇の空で、屋根の風見がカラカラと気ぜわしく鳴っていた。