Classici giapponesi con furigana
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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
Leggi スウィス日記 (スウィスにっき) di 辻村 伊助 (つじむらいすけ) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 216.275 caratteri · 410 schermate
幾年の後、あるいは幾十年の後、この八月一日を思い出して、ああ幸いに助かったと喜ぶ折もあろう、或いはふとあの時一と思いに死んでいたらと、悲しく思う時があるかも知れない、然しいずれにしても、人間としていつか死ぬものと定められてある以上、私個人としては、此の後、幾百十年生きのびたとしても、此のアルプスの雪に埋めらるべき、八月一日ほど、快い死に様を、或いは恐らく求めえられまいと、残念にも思われる。
こう思いつづけている間に、風につれた山の雨は、いく度となく窓を叩いて、終夜暴れつづけた。暁方近くうとうとして、ごとりごとり床板を踏む、フォイツの足音に、ふと眼覚めた時は、枕に近い小さい窓には、朝靄が浴場の玻璃扉のように渦まいておる。風は落ちて、しっとり湿れた山の宿に、夜はほのぼのと明けていた。
気分は極めていいが、身体の痛みは昨日よりも又更にはげしい、片手わざで顔を洗う間も、踵には釘を打たれるような疼痛を覚える。簡単な朝飯を食べて、七時頃、表のテレースで一ぷく喫って、ベールエックに別れを告げた。朝靄はいつとなく裾から晴れて、空にはところどころ蒼空さえ仰がれる。