Classici giapponesi con furigana
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いちのくらさわ
一の倉沢
久生 十蘭
Leggi 一の倉沢 (いちのくらさわ) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 6237 caratteri · 13 schermate
「やった」
そのとき、菱苅はふしぎな想念に憑かれて、とつぜん錯乱した。
「初枝、お前はサブ・ザックを持って、一時十分の汽車で土樽へ行ってくれ」
「土樽へ行ってどうするの」
「マチガ沢の上、オキノ耳の近くの尾根で待っていろ」
「まさかマチガ沢をやるつもりではないでしょうね」
「おれは無気力な生活をして、精神も肉体も腐らしてしまったが、この辺で自分の気力を証明してみる必要があるんだ……手を見てくれ。震えていないだろう。足もこのとおりしっかりしている。おれはまだやれるんだ。心配しないで、尾根で待っていてくれ」
自分の気力に証明をあたえるというそれだけのために、菱苅はマチガ沢本谷の悪場に挑みかかった。三の沢の出合いから、本谷に低く沿って横渉りしながら、草付の岩場を精根こめてにじりあがった。
大滝の手前の涸沢を十五米ほどのぼり、岩庇の下を右にまわって、岩角の灌木をホールドしたとき、枯枝の※ぜるような音を聞いたと思った。その音がなにを意味するか理解するひまもないうちに、反射的に手が伸びてそばの岩角にしがみついた。その瞬間、灌木を載せた岩が削壁から剥離し、えらい音をたてて落ちて行った。