Classici giapponesi con furigana
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ぼしぞう
久生十蘭短篇選
久生 十蘭
Leggi 久生十蘭短篇選 (ぼしぞう) di 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 48.344 caratteri · 96 schermate
「あの千田さんが……ご夫婦で。それはお気の毒だったわねえ」
「なにしろ任地がアンカラでしょう。そうまでなさるにはどんなにお辛かったろうと思って、つくづくお察ししたわ。そんな方もあるのに、伊作なんか、帰ってきたって欧羅巴のほうばかり眺めながら腑ぬけのようになって暮すんでしょう。帰らないですむならあんなひと帰って来ないほうがいいんだわ。あなたやはり逢いたい?」
「逢いたいね」
「母親なんて馬鹿なもんだわね。あんな目にあわされても息子が恋しいなんて」
「ええええ、どうせあたしは馬鹿なのよ」
やすを自動車に残して山下桟橋へ行ってみたがちっともようすがわからない。冷たい風が波しぶきといっしょに吹きつける桟橋を寒肌をたてながら行ったり来たりしていたが、引揚者は収容所にいるだろうということでそっちへまわった。
合宿所へ行くと伊作はいたが姿を見せず、ホテルのポーターのようなのが代りに出てきて、磯子の萩ノ家という家で待っていてくれ、すぐあとから行くからといってよこした。
もとはどういう名のある邸だったのか、竹の櫺子をつけたいかにも床しい数奇屋がまえなのに、掛軸はかけず、床柱の花籠に申訳のように薊と刈萱を投げいれ、天井の杉板に金と白緑でいちめんに萩が描いてある。