Classici giapponesi con furigana
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ふたつのみち
二つの途
豊島 与志雄
Leggi 二つの途 (ふたつのみち) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.
N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 51.102 caratteri · 104 schermate
自分の声に聞き惚れていると、自然に涙が出て来た。涙ぐみながら、幼い唱歌を歌いながら、足をやけにばたばた動かしていた。
木下が其処に姿を現わした時、信子ははっと息をつめた。窓縁につかまったまま身体が氷のようになった。
「何をしてるんです、唱歌なんか歌って。」と木下は云った。
信子は黙っていた。
「岡部君がよくなってゆくのが、そんなに嬉しいんですか。先日までは……。」
木下は言葉を途切らした、そして眼を見張った。
「信子さん、あなたは酒を飲みましたね。」
二人は互に食い入るように眼と眼を見合った。木下は一歩進んだ。信子はつと身を引いて、唇を少し歪めながら天井を仰いだ。痩せた襟筋に小さな喉仏が見えた。
「ええ私酔ってますわ。」と彼女は云った。
木下は陰惨な瞬きをした。が俄に笑い出した。
「ははは、カフェーのお信さんに逆戻りですか。」
「ええそうかも知れませんわ。」
「そしてマダム岡部はどうしました?」
信子は急に振り向いた。顔色を変えていた。
「何を仰言るのです?」と彼女は云った、「失礼な!」
その最後の一句が何とも云えない調子外れの響きを与えた。今までの気分が何処かへ吹き飛ばされてしまった。