Lettura giapponese

Classici giapponesi con furigana

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ふたつのみち

二つの途

豊島 与志雄

Leggi 二つの途 (ふたつのみち) di 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in giapponese con furigana. JLPT N2. Tocca una parola per il significato.

N2 · avanzato · kanji e kana moderni · 51.102 caratteri · 104 schermate

Aozora Bunko

そういうことをしながら、彼は死を想ってるのではなかった。呪わしい自分の生を愛護して突進せんことを想っていた。棚の上の花瓶を見た時、彼は身を震わした。唇をかみしめ眼をつぶってもたれかかってくる信子の姿が、一寸心に映じた。

彼がまた危く荒廃の感の底に沈もうとした時、画室の扉が開いて、婆やの顔が現われた。彼女は、床に落ち散っている紙屑や布片を見て、眼を円くした。

「どうなさいました?」

木下は答えなかった。

「御飯でございますよ。」と老婆は云った。

「僕は一寸出かけて来るから、後で此処を掃除しといて下さい。」と木下は云った。

彼はそのまま、帽子も被らず家を出て行った。白く霜のおりた野の上に、弱い日が輝き出していた。彼は当もなく歩き出した……。

彼は何処をどう歩いたか覚えなかった。ただ、後頭部にかすかな温みを送る朝日の光り、爽かな冷かな空気、霜の湿りを受けた黒い地面、何処かで鳴いた小鳥の声、遠い汽笛の音、それらを心に感じた。

八時頃、看護婦が三疊で髪を結ってる時、木下は始めて病室に姿を見せた。彼は容態表をじっと眺めた。その朝の検査によると、熱三十八度二分、脈九十、呼吸十八だった。